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2012年2月

2012年2月23日 (木)

南種子町の地材地建=町立中平小学校校舎

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町有林の木材を大断面集成材に

 昨年秋、地元の皆さんの手で町有林から切り出された木材は、6月初旬南種子町立中平小学校校舎の架構として、三井住商建材(株) のHR工法にて再び島の大地に立ちました。
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 平成22年11月22日朝、伐採後船積みされたスギ材が、志布志港に到着。以降、今年5月まで、山佐木材(株)下住工場で、板材(ラミナ)に製材、防腐防蟻処理のためホウ酸塩を注入、乾燥後、大断面集成材として、新校舎に使う柱や梁に加工されました。
 この木造校舎の中で、子供達に、誇るべき地域の歴史や伝統と、それを伝えていく未来について、語り継いで行かれることと思います。地域教育の新しいシンボルとなることでしょう。

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地域の木材を活用する

 先人達が植樹、育林と大切に守り続けてきた歴史ある町有林の樹木。
 利用されるところと同じ気候風土で成長した木材は、その地域で造られる建物に最も適した建材と言われています。
 加えて、集成材に加工することで、あまり大きくない木や多少曲がりのある木でも板にひけるので、町有林などの大切な木材を有効に利用できます。
 また、地域木材の利用が進むということは、伐採、搬出から建物の建設まで、多くの地元の人々がかかわることで、林業はもとより地域産業全体の活性化に繋がっていきます。
 木の持つ香り、暖かみや、湿度を調整するなどの特徴によって、子供達にとって快適な室内環境を作り出すだけでなく情緒面での安定にも効果がでてくるそうです。

(参考文献『あたたかみとうるおいのある木の学校』文部科学省)

(発行 平成23年7月20日)

CLT床版の強度及び音響実験への取り組み

 現在、国交省住宅局平成22年度「木のまち・木のいえ整備促進事業 木造住宅・木造建築物等の整備促進に関する技術基盤強化を行う補助事業」において、大型木質多層パネルの生産技術の確立と性能評価に取り組んでいます。
 季報第6号でご紹介いたしました法政大学デザイン工学部建築学科網野教授のご指導のもと、欧州でさかんに中高層木造建築に使用されている直交交差積層型のパネル(CLT:クロスラミナティンバーもしくはクロスラミナパネル)を国産材で製作し、その曲げ性能や床版に使用する際の音響性能の調査を行っております。
 本頁では、これまでに行った実験についてご紹介いたします。

◇曲げ試験◇

 鹿児島県工業技術センター地域資源部のご協力をいただき、数種類の積層構成について、実大試験機を使用してCLTの曲げ破壊試験を実施いたしました。これにより、床版として使用するとき、上からの加重に対しての強度を知ることができます。

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曲げ試験の状況

◇床版音響実験◇

 集合住宅等では、上下階での騒音トラブルが多いようです。特に木造においては、その対策を十分にとっておく必要があることから、木材(CLT)とセメント板などとの複合床版を設計し評価します。実験棟は実際の建物を想定した作りで、CLTで壁を構成し2.7m ×3.6m の部屋を3室製作しました。それぞれに床版構成を変えて測定を行っております。
 床衝撃音遮断性能測定には、大分大学工学部福祉環境工学科の富来(とみく)先生のご指導をいただき実施しました。軽量衝撃源には、タッピングマシン、重量衝撃源にはバングマシンとゴムボールを使用します。階上で衝撃音を発生させ、階下の密閉された部屋で集音して、遮音性能を測るものです。
 尚、この実験は、一部公開して行い、国交省、森林総研等国の機関をはじめ、鹿児島県、近隣市町、設計事務所の皆様約50名のご参加をいただきました。

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実験棟 水色の部屋が集音室

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重量衝撃音源

◇実験結果◇
 この事業の実験結果につきましては、7月末を期限として国交省に報告致します。その後、公開実験に参加いただいた皆様をはじめ、CLTにご興味をお持ちの方々にお知らせする予定です。(技術部長 村田 忠)

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公開実験内容の説明

(発行 平成23年7月20日)

現場リポート 南薩木材加工センター様新工場

 南薩木材加工センターは、南薩地域の森林資源の有効活用と林業振興を図ることを目的とし、川辺地区の二市五町の木材業、森林所有者、市町等が出資して、第三セクター方式による近代的な大型加工施設を整備しました。
 工場の規模や内容は、最新のコンピューター機械設備を備え、これからの時代に対応した木材の総合加工センターとしての役割を果たします。

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(南薩木材加工センター様ホームページより抜粋)

★工事の概要★

 南薩摩のほぼ真ん中、南九州市川辺町に( 株) 南薩木材加工センター様は大規模な木材加工施設を展開されています。
 5月から、この製材工場の増築にあたり、元請けの(有)セイコウ建設様のもと、木造建て方工事を担当いたしました。
 建築面積は、2、426m2。構造用集成材168m3、スギ一般材(製材)が20 m3、いずれも認証かごしま材を使用されました。
 工法としては、ドリフトピンやボルトを使った金物工法と、一部に構造用接着剤を用いたホームコネクター工法で施工しています。
 建物が大規模なこと、部材が大きく大量なことを考慮して、一つの建物を四つのブロックに分けて建てていきました。次の工程の業者さんが、いつでも入って来ていいように、一つ一つのブロックを完全に終わらせてから、次のブロックに行くという流れで、手戻りなくスムーズに進むように作業を心掛けました。
 工事全体としては、既存の建屋であった原木選別機棟を解体した後、基礎工事に続き、私どもの木造建て方が入り、トップライト枠等の鉄骨工事、屋根工事が終わったところです。
 現在は、外壁、内壁、キャットウォークなどの造作工事や石膏ボード貼りが進み、機械基礎工事を行っています。7月末には、建物の検査を終え、引き渡し完了後、8月から機械設置工事に入っていきます。本格的な操業開始は9月になるとのことでした。

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★主任技術者として★
 私が、安全面で特に注意しているのは、木造建て方の主任技術者という立場で指揮しているので、不安全な行動や、設備はないかと、常に気を付けています。そのような作業者、箇所を見つけたら即座に注意、あるいは是正して作業にあたってもらうようにしています。
 今回の工事にあたっては、鳶工事に湊崎組さん、大工工事ヤマケンさんのご協力により、梅雨期に入っていましたが、施工も順調に進み、工期内に終わらせることができました。
 また、安全面にも率先して取り組んでいただき、他の業者さんの模範となるような仕事ができたことに感謝したいと思います。
 (事業部加工建方リーダー山田晃之)

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(発行 平成23年7月20日)

東日本大震災に思う

肝付町産業創出課長 竹之下克明 様

 平成23 年3月11 日に発生した東日本大震災で、岩手県内だけで死者4,578 人行方不明者2,281 人(7月8日現在、県災害対策本部まとめ)という未曾有の被害を受けました。特に沿岸部では、津波により多くの市街地が壊滅状態になりました。
大隅半島4市5町では震災直後から、岩手県大船渡市に災害復旧支援のため職員を派遣しています。この派遣支援を円滑・効果的に行うため復興現地支援本部を立ち上げた、肝付町産業創出課長竹之下克明さんに寄稿いただきました。

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支援対策本部玄関

本当に人は一人では生きられないんだな
 大船渡市に、現地支援本部を設置するために4月6日から17 日間派遣されましたが、調査に入ると未だかつて見たことのない被害の甚大さに驚愕し、はじめは被災者に声を掛けることもできず自然と涙が出る思いでした。
 崎浜地区では73 歳の漁師が「海が好きで漁師を続けてぇが、この歳で借金したら死ぬまでに返せねえ。津波で俺の家もやられで、今日は重機が瓦礫を片付けてる。」と悲しげな表情で話されました。
 泊地区では、「地区の半分が家っこさ無くしたが、みんなで部屋を分け合ってここで暮らしてる。」と絆の強さを感じさせられました。
 蛸の浦地区では、三回の大津波を経験し家を破壊された83 歳の女性が「みんな昔は貧乏だった。昔に戻っただけのことだ。ゼロからまた始めだらいい。」と明日を向いて話されました。
 非被災者が被災者にできることをしたり、ボランティアを積極的にしたり、お互いを気遣い共に復活しようとする気持ちが強いことは、一朝一夕にはできないことで、いかに普段からのコミュニティがしっかりしていたかが窺い知れます。同じ状況になったら、私たちは海外メディアから賞賛された大船渡市の方々のように行動できるのか。今一度、見つめ直してみる必要があるかもしれない。

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崎浜地区の子供達と防潮堤

(発行 平成23年7月20日)

2012年2月22日 (水)

やんばるの森

Wd7_i_001 平成23 年4月に、「Yanbaru Discovery Forest やんばる学びの森」として、宿泊施設・ビジターセンター・食事施設が整備され、リニューアルオープンいたします。今回、この施設の設計を担当されました一級建築士事務所アトリエ アクシス(Axis) 仲地 昭様より原稿を頂戴しましたので、ご紹介いたします。

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やんばるの森

 ここは、やんばると呼ばれる沖縄本島の北端で山の中、沖縄戦の戦火からのがれた唯一、自然と文化が残った場所。世界的にも貴重な亜熱帯の森を有する魅力的な場所です。そのやんばるで沖縄の水瓶と呼ばれる安波ダム周辺は希少な動植物が住み、群生し、別名クイナ湖(ヤンバルクイナ)とも呼ばれています。その安波ダムで計画されたやんばる学びの森事業は、やんばるの自然・文化を継承し活用する体験・滞在・保養・交流の場として、持続可能で環境にやさしいを柱とする、国頭村の地域振興事業の計画の中で重要な事業です。

 施設の計画地は、無用な自然破壊の開発を避け、既に人の手が加わったダム建設で使われた、飯場及び残土捨場です。

 建物は全体の核となり多様な対応をする管理棟のビジターセンターと外来者や宿泊者を受入れる食堂棟、宿泊棟の3 棟から構成。廻りには、自然と触れ合える散策路が整備され、魅力あふれる内容で訪れる方々を4月から迎え入れます。

 その重要な施設を計画するに当たり、自然と対峙する建築のあり方、表現方法はと悩みながら、現実から離れる事で、自然に対する感動と文明のあり難さや恵まれる事の問題をどう感じてもらえるか、それをどう形にするか、運営側といろいろ話し合いながら進める事なりました。

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構 造

3つの棟は木造に見えますが、用途による構造制限、予算、別々の補助事業とそれぞれ違います。管理棟のビジターセンターは林野庁の補助で木造。食堂棟と宿泊棟は耐火要求など。木造で耐火基準は満たせても予算、メンテナンスと課題があり、さらに食堂棟は自然の中へ溶け込む演出の為に迫り出したデッキテラスで鉄骨造と。気づいたら3棟とも違う構造になりました。この事は改正基準法における影響が未だ残る中、判断にかなり悩みましたが、大切な事はこの事業を成功させ、人々に感動を味わってもらえる事だと決断しました。

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表 現

 自然と向合う建築の表現、自然に馴染みながらも負けないくらいの存在感を出す方法として、地面から隆起してきた力強さと安定感を垂直ではない柱、壁で部分的に表現する事にしました。
 それは自然の森の中で木々が競いあって上に伸びるさまで、一見無秩序に見えるがそれが集まって森を形成する。 もちろんこの建物も生命を持ち自然の一部として存在しなくてはなりません。円ではなく線で尚且つ交差しながら、見る角度でさまざまな表情を見せ、人に不安感を与えないバランスと木の質感で温もりと安心感を感じてもらい、人も自然の一部であると改めて認識してもらう。日常では味わえない感動を与える事を一番の柱にしました。
 しかし、それを実際に人口的に形にする事は簡単ではありません。造る側の意識と協力が無ければ上手く行かないのです。

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問 題

 設計当初の問題は木造で大空間を要求されるビジターセンター。鉄筋コンクリート造と鉄骨造につては複雑な設計を今までこなして来ましたが、これだけの大きな木造は経験がありません。まして、亜熱帯の沖縄では克服しないといけない課題が木造の場合大きな障害となります。
 まずはシロアリの問題と外部使用での腐食の問題。沖縄でも住宅は木造が増えつつありますが、大きな問題です。まして廻りは自然に囲まれているのですから。また、沖縄は台風の問題も解決しなければなりません。計画地は山の上です。

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出会い
 そこで出会ったのが、鹿児島の山佐木材(株) さんでした。設計の要望を見事にかたちにしていただきました。心配していた大断面の構造、シロアリについても確かな技術力と豊富な経験で、協力していただき、たいへん大きな力になりました。平面計画は単純な木造とは異なり、尚且つメーターモジュールでの計画。
 設計の思想で角度がある平面と断面の構成。木造で力強さと美しさの表現がどこまで出来るのか、経験がない分いろいろな要求を出しました。構造計画、コストの面など前向きに取り組んでいただいた事は大変感謝しております。
 完成した建物は想像以上にすばらしいものです。当初のコンセプトを含めた表現方法が上手くいったと思います。苦労はしましたが、木造の素晴らしさやおもしろさを経験できました。
 それは鉄筋コンクリート造と鉄骨造にはない、豊かさや暖かさがあります。これを機に木造の普及を考えたいと思います。
 また、この事業に参加させて頂いた事、協力して頂いた方々への感謝を心より御礼申し上げます。

ありがとうございました。

(発行 平成23年4月12日)